038−21
花の少女ガール綾
第21話 「はびこる魔の手、地底の大洞窟」
綾子たちの住む北陸は、雨の多い土地柄です。
そんな雨の日は通学も憂鬱ですよね。気に入りの靴は水浸しになって、靴下まで濡れるし、雨風の日などランドセルのなかにまで雨が入り、教科書やノートが濡れ、染みをつくります。
しかも車が水溜まりもおかまいなしで走るので、横からも水しぶきが頭までかかります。
車はみな、水溜まりの道路を千里浜のなぎさドライブウェーと勘違いしているかのようです。
さて話は放課後のことになります。
「ぐーみーちゃん」
放課後、雨ではありましたが、綾子は長靴を履いて親友のめぐみの家を訪れました。
「あーそーぼ!」
「はーあーい!」
玄関へ出迎えてくれためぐみは、うふふふふと笑顔でした。
「なにか良いことあった? ぐみちゃん」
黄色の長靴を揃えながら綾子が訊きました。
「綾ちゃん、長靴ちょうど良かった、ちょっとその長靴は持ってきて」
「えっ長靴を?」
「うん、長靴が要るんだ!」
綾子はよく分からないながらも、まぁめぐみの言うことだしと黄色い長靴を抱えて家へ上がりました。
「綾ちゃん、いまね、すごい計画が進んでるの!」
「すごい計画」
「すごくてすごい、すごい計画なんだよ!」
「すごくてすごい、すごい計画」
めぐみの言うには、それはこういうことでした。
雨の日でも雨に濡れずに済むように、自宅から学校まで地下トンネルを掘り進めているのだというのです。
めぐみが部屋の畳をメリメリめくると、そこには大穴が開いていました。
「ほらね。だから靴が要る!」
2人は長靴を履きました。めぐみは意外にも弘進ゴムの黒いゴム長靴です。
実用性を重視したのでしょうか。
私も雪の日には弘進ゴムの長靴を愛用しています。
弘進ゴムの工場は小矢部市泉町にあり、あいの風の石動駅を出たあと、電車の車窓からも見えますね。
さて、2人は縄ばしごを垂らして下りていきます。
縦穴が終わって両足が地面に着くと、そこから大トンネルが始まっていました。
数m間隔かで電球も点いています。
かなり本格的なもののようでした。
「ぐみちゃんがこんなトンネルを作ったの?!」
「えっへん」
「……すごくて、すごすぎる」
「これがヒミツなんだよ!」
めぐみは、トンネルの壁に立て掛けてあったスコップを手に取りました。
ただのスコップのようにも見えますが、よく見るとそれは黄金でできており、電球の灯りをギラギラと反射させています。
「これは聖なるスコッパ! これならねぇ、岩盤もメロンみたいにジュクジュク掘れちゃうんだ!」
「そんなスコッパがあるんだ!」
「パパが志賀町の口ッキ一で買ってきてくれたんだよっ」
「へぇー、口ッキ一ってなんでも売ってるんだね」
「うん、お刺身やお寿司も売ってる!」
「すごくて、すごい」
なお、無論これは小説のなかの話ですから、それはフィクションです。
洞窟を灯りを頼りに100mも進むと、トンネルはそこで行き止まりになっていました。
「綾ちゃん、ここから掘り進んでいくんだよ」
めぐみは綾子に懐中電灯を手渡すと、聖なるスコッパを振るい始めました。
聖なるスコッパの先端は岩盤のなかへいとも簡単に入り、土はもうゼリーでもすくうみたいにどんどん掘り出されていきます。
まるでクスリのアオキのテレビCMのような光景というしかありません。
「綾ちゃん、これが聖なるスコッパの威力なのよ綾ちゃん!」
綾子があっけに取られているうちに、トンネルはもう10mくらいは進んでしまいました。
と、その先で、ガボ、バボとスコッパの先が宙を切ったかと思ったら、なんと岩盤の切り出した先に空洞がありました。
「空洞よ!」
空洞はかなり広く、めぐみが掘り進んできたトンネルよりも口径は広いようです。
「こ、これは、ぐみちゃん!」
謎の空洞は空洞というよりも、天井は高く、地面も壁も石でできているようで、まるで地下室でした。敷かれているのは白く艶のある石です。
いや、違います、これは石ではありません。
石ではなく、石と思われたのはコンクリートでした。
鉄筋コンクリートです。
しかも内部には電気が来ているらしく、懐中電灯を消しても、まるで地上の昼のように明るいのです。
どう見ても人工物でした。
「わ、わたし学校の下まで掘ろうとしてたのに……」
めぐみは明らかな人工構造物を掘り当ててしまったことに、おびえの色を見せています。
「ちがう! ぐみちゃん」
「え」
「ぐみちゃんは凄く良いことをしたのよ!」
「えっ?」
めぐみは涙をハンカチで拭いながら綾子を見上げました。
「見ててごらん!!」
綾子がスカートのポケットから取り出したのは、案の定カスタネットでした。
それをカチカチカチと打ち鳴らすと、地下空間だけにいつもより音は反響しました。
「花開く! フラワースタート!」
綾子の身体の輪郭が、見たことのない虹のようなさまざまな色彩に彩られて光りました。
子どもの頃、目を閉じると幾何学模様のような帯のような青や黄色のギラギラしたものが万華鏡のように輝いていたことを憶えているでしょう。光はそれと似ていました。
綾子がくるくるとその場で回転するとともに、虹色の身体に布状のものが巻き付いていき、自然にそれは着衣になっていました。
花! 華! 花! 華! 花!
とめぐみの眼には見えました。いいえ、それは網膜に直接焼き付いた像でなく、脳に入った波形のようなものの断片が、視神経を通じて視野にそのような文字を見せているのかも知れませんでした。
詳しいことは分かりませんね。
「綾ちゃん!」
めぐみの呼び掛けに綾子は静かにこう答えました。
「わたしは花の少女ガール綾!」
そして綾子は走り出しました!!
地下の大洞窟を猛スピードで1kmは走ったところでしょうか、やがて広大な大空間が広がりはじめ、その先に白亜の大神殿のようにも見える地下建造物がありました。
パルテノン調の欧風の外観のようでもありますが、よく見ると、その外側の至るところに機関砲、大砲、ビーム砲の銃身が配置されています。
なお、無論これは小説のなかの話ですから、それはフィクションです。
と、そのときです。
パッ! と突然光ったスポットライトが、綾子の身体を影法師にしました。
「しまった!」
ダダダダダダとバルカンの一斉射撃が始まりました。
が、綾子の身体は蜂の巣にはなりませんでした。綾子の身体から溢れる無数の花びらがまるで盾のようにそれをガードしたのです。
綾子はカスタネットをカチコチコチ、カチカチと素早く鳴らしました。
その華奢な手の平からこぼれたように、あふれる無数の花びらが、まるで意思を持っているかのように1ヶ所に集まっていきます。
やがてそれはボールのように集まりました。
「この花奥義、フラワー・ジャンボボールを!」
花びらの渦はたちまち直径1mはあろうかという巨大なビームとなって、一直線にパルテノン風の神殿へと照射されました。
まずボーンと小さな爆発が起こり、爆発が爆発を誘発するかのように、神殿は轟音とともに崩壊していきました。
火柱は大空洞の天井までも貫くほどの勢いで吹き出し、地下空間はみるみる黒煙で覆われました。
綾子は襲い来る煙からダッシュで逃れ、気を失って倒れ込んでいためぐみの身体を抱きかかえると、花奥義・フラワー・ストアコンパリソン・アフターにより一瞬で洞窟を脱出しました。
「異星人の地底基地がこんなところにまで進出しているなんて……」
めぐみの身体を横抱きにしながら、綾子は超スピードで空を突き進んでいきます。速すぎて、高速というのもそぐわないほどでしょう。ドン・キホーテでは激安ではなく、驚くべき安さ、つまり驚安という言葉を使っていますが、これぞすなわち驚くべき速さ、驚速といえました。
「ぐみちゃんは、わたしが守る……!」
綾子は亜空間を跳躍しながら、めぐみの身体を強く抱きしめました。その体温が綾子を勇気づけます。
なお、無論これは小説のなかの話ですから、それはフィクションです。
→ 第22話「悪の牛乳工場へ潜入せよ!」
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