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 の少女ガール

  第11話 「綾子の飼い猫! ニボシ登場」


 今回は予告では「絶望! 老人の館」の巻をお送りする予定でしたが、それよりも面白いエピソードが思い浮かんだので、急遽変更して「綾子の飼い猫! ニボシ登場」をお届けすることにしました。
 作者はあまりニボシが好きではないのですが、綾子の猫はどうやらニボシが好きなのでしょうか、綾子が名付けたのか、弟のケリーが名付けたのか、私は本人ではないので分かりませんが、この家の飼い猫はそのような名前で呼ばれているようなのです。
 このことは、広報「はちつか」の花の少女ガール綾関連の記事には記載がありませんでした。
 さて、話はある深夜のことです。
 綾子は漫才のにぎやかな声で眼を醒ましました。
 もちろん生の漫才ではありません。テレビです。
 夕べ寝る前にタイマーを設定するのを忘れて、そのままテレビは点けっぱなしになっていたようでした。
 綾子は布団のなかで眼を閉じたまま、枕元に置いてあるはずのリモコンを手探りでさぐりました。
 しかし、どれだけ手をすべらせても、リモコンの感触が見つかりません。
 綾子はしかたなく、布団から身体を起こしてリモコンを探しました。……見当たりません。
 綾子はいったん起き上がるとなかなか寝付けなくなる体質なので、できれば身体を横にしたまま、事を終わらせたかったのです。
 しかし、それができないことに少しいらだちを覚えました。
「リモコンを……!」
 もしかしたら、夕べの私はリモコンを机の上に置いたのだろうか。こんなことにならないよう、かならずリモコンと耳掻きだけは、枕元に置いておくのに。
 綾子は自分で自分にいらだつと、頭がやけにクリアーになってしまっていることを自覚しました。
 もう、眠れなさそうです。
 ついに綾子は電気を点けました。
 時計の針は、まだ2時を差しています。
 テレビは漫才師たちの声高な漫才を面白おかしく流していました。
 ハハハハハと笑っている。
「わたしは、おかしくなどない!」
 綾子がむかついて、おもわずテレビ(19インチ、直下型LEDバックライト搭載、残像軽減、質感や色彩、階調の表現に優れた映像処理により高画質化を実現した液晶薄型テレビ)に手をのばし、本体の電源を切りました。
 そのときです。
「おかしいのは、綾ちんだニー!」
 なんだか幼児のような高い声が、漫才の途切れた部屋中にポンと響きました。
「ニボちん!」
 飼い猫のニボシが、リモコンを咥えて、ととととっとベッドに寄ってきました。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
「ニボちん!」
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
「ニボちん!」
 飼い猫のニボシはリモコンを咥えたまま綾子を見上げています。
「ニボちん、おなかすいたの? それリモコンでしょ?!」
「それは分かっているニー! ぼくはニボシ……。ニボシがリモコンなんてことはないと知っているニー!」
「それなら寝なさいよ……わたしも眠るからね……」
 綾子は布団にもぞもぞと入り直しました。
 布団は昨年の暮れに親友のめぐみ家族とともに買い出しへ出掛けた大型家具店で求めた温感布団(繊維を工夫して毛先が細くなるよう加工、肌と繊維の接触面積を減らしたことで身体から奪われる熱が少なく、冬の布団に入った時のひんやり感が軽減される接触温感機能を持つ布団)です。
「綾ちん、起きる!」
「なぜ?! まだ2時でしょ!!」
「起きるったら起きる!」
「分かった、お正月だからね……、今年はねずみ年、ニボちんは、ニボシなんかじゃなくてネズミが欲しいんだね……!」
 綾子は勉強机の上に置いてあったカスタネットをニボシの前足に渡しました。
 ニボシはプニプニの猫手をたくみに使って、カチ、カチ、カチ、カチとそれを打ち鳴らします。
「花開く! フラワースタートだニー!」
 ニボシの毛モジャの身体の輪郭が、見たことのない虹のようなさまざまな色彩に彩られて光りました。
 そしてニボシはクルックルッとその場で回転し、それとともに虹色の身体に布状のものが巻き付いていき、自然とそれは着衣になっていきました。
 花! 華! 花! 華! 花!
 キモノ! バイセル!
 と綾子の眼には見えました。いいえ、これは網膜に直接焼き付いた像でなく、脳に入った波形のようなものの断片が、視神経を通じて視野にそのような文字を見せているのです。
「ぼくは花のキャット猫ちゃんニボシだニー!」
 ニボシは手術を受けたあとのキャットウェアのような猫服に身を包み、大見得を切りました。
 顔は猫マスクに包まれて、開いたら目もとからキャッツ・アイがピカピカと光っています。
「さぁニボちん、ネズミ探しの旅に出なさい……!」
「オーライだニー!」
 綾子が窓を開けると、ニボシは夜の屋根へと飛び出していきました。
 森酒店は、酒屋といっても、普通の民家の玄関先のタタキに、ビールのケースや酒の棚を置いたような粗末な店でした。しかし、そのころは今のようにディスカウント店もなく、付近一帯の村々に常連の客があって、まずまずの賑わいでした。注文をうけての配達や、車で乗りつけたお客への小売りが主体でしたが、ほかにも、在所の勝手知ったる常連客相手に、立ち飲みという売り方も行っていました。お客を普通の家屋同然の玄関先に掛けさせて、祖母のしつらえた漬物をつまみにカップ酒という、いま思えば時代がかった光景が、当たり前のように残っていたわけです。
 村の大工をしていた亀造とかいうおやじも、この手の客のひとりでした。酔いがまわって、気持ち良くなっているだけならいいのですが、日によって、怒鳴り散らしたり、祖母にからんだりすることもしばしばで、興味本位に店へ出てきた私をからかったりすることもありました。それだけが楽しみだったのかも知れません。昼間から深酒やって、帰ってしまうと、祖母はしきりと、あんなダラなモンになるなや、とぼくに忠告したものでした。亀造はその後、私が小学校三年か四年のとき、昼間から酔っ払ってふらふらと道へさまよい出たところを、ある建設会社のトラックに轢かれて呆気なく亡くなっています。
 幼いころから酒が身近にあって、また、酒に溺れた人達を間近に見もするという環境でした。いま、私も立派なのんべえに成り果ててしまいましたが、酒の味と、酒のつかいかたを知って、はじめて、亀造たちアル中の心境と、かなしみが理解できた気がします。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
「ニボちん!」
 綾子は階段を下りて冷蔵庫から安眠ドリンク(機能性関与成分ギャバを100r配合、その他の成分としてヒハツ抽出物15mg、ショウガ抽出物4mgの2種類のスパイス抽出物を配合、飲みやすいオレンジ味)を取り出すと、ぐいっと一気に流し込んでから自室へ戻りました。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
 ニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャンニャカニャニャンニャン。
「うっ!」


 → 第12話「絶望! 老人の館」

*この小説はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

  令和2年(2020年)3月26日 公開 (4)


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