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吾妻線と草津温泉

 宮脇俊三先生の鉄道紀行文で見かけた日本一短いトンネル「樽沢トンネル」のある「吾妻線」ですが、このほどダム工事のため線路の付け替えが行われ、同トンネルは経由しなくなるということを知り、いまのうちに宮脇文学の聖地を体験しておかねば、と葬式厨のように出掛けることにしました。

最終修正:令和5年2月22日 (7)


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 平成26年(2014年)7月。吾妻線は初めてです。越後湯沢で乗り換えた「MAXとき」を高崎で降り、在来線ホームから[普通]長野原草津口ゆきに乗車。吾妻線は渋川が起点ですが、七尾線に津幡発着の列車がないのと同じで、すべての列車が高崎を起終点としているようでした。

 前のボックス2つを陣取るオバチャングループが賑やか。オバチャンたちは、小さな白いカード状のものを何枚か手にしては交換しあっているので、トランプでもしてるのかと思ったら、どうやら白黒写真のようでした。写真にうつる顔を、誰それだ、誰それだ、と指摘しあって、思い出ばなしにドッと笑い声が高くなったり。楽しい雰囲気。同級生のあつまりで温泉でも行くのかな?

 
 北陸本線でも車号プレートが盗まれ、跡にテプラ等が貼られたり、車号のフォントに似せた文字で手書きされているケースが多く見られますが、ここではマジックの太さのままに荒々しく書きなぐられていました。投げやりな筆跡に、怒りがこもっているように見えます。

 いくつかの駅に停まり、渋川。ここは風格のある分岐駅。ホームに「渋川駅の古レールたち」という掲示があり、渋川駅長の署名で〆られていました。ここからいよいよ吾妻線となります。川沿いの高いところを走る景色のよい路線でした。

 岩島という駅を出て、いよいよ次は川原湯温泉。このあたりからが、近く線路付け替えの行われる区間で、宮脇先生の「旅は自由席」によると、日本一短い鉄道トンネルもこの駅間にあるようです。なにせ短いトンネルと聞いているので、知らぬうちに入って出てしまってはこまるので、窓の外を注視。

 段丘上の山際をカーブしながらしばらく走り、おっ列車の行く手にはトンネル! よっしゃトンネルに入ったぞぉー、と思ったら意外と長く、出るのに時間がかかりました。あれっ? と思ったらすぐあとにまたトンネルが来て、入ったと思ったらもう出ていて。これが樽沢トンネルでした。

 普通、トンネルは入れば「ゴーー」と反響音がするものですが、このトンネルは「ゴ」で終わってしまうのです。長さは7.2mだそうで、バスでさえ、頭かお尻どちらかが出てしまうことになりますね。まさに宮脇先生の「入るのと出るのが同時といってよい」というくだりそのものでした。なおこのトンネル自体はダムに沈まないようです。

 
 沈みゆく川原湯温泉駅。上空には、天空の橋のような新しい道路が見えました。手取ダムに沈む前の深瀬、桑島といった村々からも、こういう風景は見えたのでしょうかね。木造駅舎の改札口に、委託駅員らしいおじいさんが直立不動で立っていました。

 
 この列車の終着・長野原草津口に到着。

 
 吾妻線はここが終点というわけではなく、万座・鹿沢口を経て大前というところまで続いていますが、線路付け替え区間はここまでということで、いつかまた乗ることにして……、

 
 JRバスに乗ることにします! これも楽しみのひとつでした。

 
 行き先は草津温泉です。日本の名湯を代表する温泉のひとつですよね。一度はおいでという歌も聞いたことがありますが、一度は入らねばということで!

 車両はH651-00413の6型旧ガーラ。さすが観光路線ですね。古い写真を見せ合っていたおばさんグループも同じバスに乗りました。ほどよい乗車率で発車。

 
 元高速バス車両なのか、後部にトイレがありましたが、この手の格下げ車の常で「業務スペース」として閉鎖されていました。

 
 JRバスらしい! と感じたのがこの非常コックの封。昔は西日本JRバスでもこのような封印がされていましたね。国鉄バス時代からの伝統だったのでしょうか。

 吾妻立石。湯窪入口。洞口。降車ボタンが押されます。観光タイプのバスながら、実際にはローカル路線で、地元のお年寄りがわりと乗り降りしていました。

 
 終点・草津温泉着。

 
 ここは名高い自動車駅。突っ込み式のノコギリ型ホームにJRバスが並びます。JRだけでなく、西武バス、草軽交通も乗り入れ、総合ターミナルとなっていました。

 
 草津温泉駅。

 
 みどりの窓口。鉄道のキップも扱っていて、帰りは自宅最寄り駅までのキップをここで求めることができました。駅としては一人前で、青春18キップも売っているようでした(買えばよかったかな)。

 
 1階にはエキナカ食堂がありました。

 
 もう一軒。昭和な雰囲気の大衆食堂です。店名の通り「よし」!

 
 駅舎は3階建てで、駅として考えても相当に立派なものです。3階には温泉資料館まであるようでしたが、帰りに見学しようと思っていて、忘れていました。

 さて、草津に来たからには風呂ですよね。駅から下り坂を降りたところが温泉街になっているようなので、そちらのほうへ。

 
 風格ある路地。高さ制限の標識が出ているのは、建物の軒に接触しないようにでしょうか?

 
 モノクロのセブンイレブン。

 
 「湯畑」。湯の畑です。凄い発想やなぁー。湯の畑ですよ畑。カボチャやニンジンや、ジャガイモ。野菜でなければ、切花の畑。畑にもいろいろありますが、湯の畑というのはここだけではないですかね。たちこめる硫黄のかおり。いやー草津はさすがに凄いところ。

 
 温泉の滝。

 
 湯畑を囲う柵には草津を訪れた有名人の氏名が刻まれており、そのなかに前田利家の名もありました。

 
 さて、温泉。まずは新しそうな建物の「御座之湯」に。石川風にいえば「総湯」ですね。湯畑にわきでる温泉とは源泉の種類が違うのか、湯は透明でした。硫黄のにおいもあまり強くなかった気がしますが、引き換えにヒノキの香りが良かったです。そして熱い! 

 
 続いていかにも古そうな「白旗の湯」。こちらは地元向けの公衆浴場で、無料。入口の引き戸をガラリとあけたら、そこがもう浴場という単刀直入なつくり。湯自体はこちらのほうが断然よく、白濁した湯は硫黄の香りもうもう。しかし舐めると酢の物みたいな酸っぱい味。湯の温度はもう大変なもので、ゆっくりと段階的に腰を沈めていきました。

 こんな熱さの湯が地面から自然と湧いてくるというのは、まったく神秘的なことです。火山帯に近いからでしょうね。さすがさすがの力を感じました。山中温泉の総湯で、飲み湯をする前に手を合わせてから柄杓で湯をすくい、大切そうに口をつけている地元の老人を見かけたことがありますが、この湯はもう、ぼくだって手を合わせて入りたくなるほど、自然の偉大さを感じました。

 
 湯から上がると雨になっていて、湯畑は湯けむりをさらにつよめていました。

 
 湯煙のむこう側を、JRバスの1型車が下っていきます。これは町の巡回バスで、どうやら本来は金沢周遊号のようなボンネット調のレトロバスが使われているようですが、この日は点検のためかこの車両で代走していたようです。しかしちゃんとJRカラーなので絵になりますね。

 
 霧にけむる草津の街。

 そろそろ、帰る時間です。

 
 草津温泉→上州大津→長野原草津口。今度はエアロバスで、H654-00402。笛の誘導でバックして、霧につつまれた自動車駅を発車!

 
 窓に貼られた車内マナーのお願い。

 
 ガガガガ! 何を聴いているのですかね……。

 
 終点、長野原草津口着。

 
 高崎ゆき普通列車に乗車しました。帰りの電車はガラガラでした。切り立ったボックスシート。宮脇俊三先生もこういう電車で全国を旅したのでしょうね。最近は作品の舞台をめぐる「聖地巡礼」というのが流行っていますが、こと鉄道においては、日本全国中が宮脇文学の「聖地」といえます。

 
 これまた車号プレートのあるべきところには、ぬすっとへの怒りのこもったような筆跡。これは宮脇先生の時代にはなかった風景かも知れません。


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