もりさけてんTOP > バスTOP > 遊覧TOP > 当ページ

日本最長のバス路線・八木新宮線

 

 平成25年(2013年)10月に日本一長いバス路線、奈良交通の「八木新宮線」の旅をしました。

最終修正:令和5年2月23日 (7R)


MORI SAKETEN.com SINCE 2003


 奈良交通(株)の「八木新宮線」のことは、バス好きの方ならほとんどの方が耳にしたことがあるのではないかと思います。走行距離・約167km。バス停の数167ヶ所、所要6時間30分。運賃は片道5,250円(乗車当時)。高速バスではない一般路線バスでは、日本最長の路線として有名な路線です。

 運行区間は、奈良県の大和八木駅から、和歌山県の新宮駅まで。金沢人にとっては、あまり馴染みのない地同士で、まずはそこまで行くのがひとつの旅です。平成25年(2013年)10月忘日、京都深草で高速バスを降り、竹田駅から近鉄電車で大和八木へ向かいました。

 
 大和八木駅到着。まずは駅前にある奈良交通の案内所にて、乗車券を購入します。

 
 新宮まで5,250円の乗車券を購入! ちょうど八木新宮線は50周年を迎えたそうで、ただいま乗車券は「プレミアム乗車券」として発売中。大きな粗品が付いてきました。カバンが小さいので入るか心配でしたが、なんとか入りました^^;

 ちなみに、粗品の中身は「168ガイドブック」とした沿線紹介のリーフレットと、杉の香りのよい絵馬、そして八木新宮線の映像を収録したDVDでした。まったく「粗」でない品です。

 
 さて、いよいよ13:45発の[特急]新宮駅ゆきに乗車。液晶式の運賃表には「八木駅→十津川温泉→ホテル昴→湯の峰温泉→新宮駅」という表示がスクロールしています。その姿だけはよく写真で見かける専用のブルーリボンには、八木新宮線50周年のヘッドマークが装着されていました。

 私以外にも数名の乗客がいましたが、どの方もちょっと出掛けた帰りの主婦といった様子で、どう考えても新宮駅まで乗ることはないであろう顔ぶればかりです。

 発車後、運転士さんが「終点、新宮駅には20:19分の到着予定です」とアナウンス。まだ14時前の明るいなかを走っているのに、終点に着くのは、日が暮れてすっかり晩めしどきも終わったほどの時間。知ってはいますが、いざアナウンスという形で耳にすると強烈ですね。新宮駅からの乗客のうち3名は、2つ目の医大病院前ではやくも降りていきました。ふつうの路線バスとかわりません。

 バスは橿原市郊外の、ロードサイド店のならぶ国道を走ります。忌部、国道曲川、アルル北。国道沿いに停留所はたびたびあって、そのどれも停車停留所になっています。[特急]といいながら各停ですね(^_^;) 「アルル」というのはイオンモールの名前で、ここからも買い物袋を提げた主婦が乗ってきました。往年の名金急行線も、こんな調子だったのでしょうかね。

 

 近鉄御所駅を過ぎると、国道ものどかな風景に変わってきました。山の中腹にかけて、雛壇みたいに斜面を開いた集落の風景。まだ稲刈りしてない棚田に金色の穂先がゆれていました。しだいに谷がせばまり平地がなくなってきて、道は登り坂に。そんなあたりに「船路」というバス停。昔の人はほんと、村にふしぎな名前をつけるものです。船を浮かべる川も見当たらないのに……。「かもきみの湯」、「風の森」。このあたりはもう山道になって、名金線の梨木から鳴瀬あたりみたいな感じでした。

   
 1時間ほど走って、五條バスセンターに到着。ここで15分間の開放休憩となりました。なんだか八木〜五條間だけでも結構乗りでがあって、すでにわりと満足感が笑

 
 運賃表の運賃はすでに1000円突破。しかしここから新宮駅までは、まだ5時間10分かかります。

 休憩が終わり、バスは乗り場へ移動。新しく4名が乗ってきましたが、これもいかにも近在の利用客といった顔ぶれです。坂をのぼって五條駅。こちらではリュックを担いでお土産の紙袋など提げた壮年の夫婦が乗ってきて、ようやく[特急]らしくなりました。JRの正式な駅名としては「五条」と書く五條駅前は思ったより手狭で、誘導員の方の笛でバックし、ラッパを一発鳴らして発車。

 国道168号線はしだいに山道に。谷を見下ろしながら、高いところを走っていきます。車窓に見えるレンガ積みのアーチ橋は、あれが有名な五新線のバス専用道でしょうか。当初は鉄道路線として建設されていたものの、計画が中断され、線路が敷かれるはずだった用地をバス専用道として整備し、そこをJRバスが走っていたものです。現在はJRバスが撤退していますが、奈良交通が路線を引き継ぎ、日に何本かを専用道経由で運行しているそうです。

 山間地に入っても、相変わらずどのバス停も乗降扱いになっているらしく、車内放送がひっきりなしに続きます。しかも奈良交通では、到着時にも放送が入ることになっているので、走っている間中アナウンスが流れているような様相です。私としては楽しくてしょうがないのですが、乗務員さんは送りボタンを押しては押してという感じで大変でしょうね。

 JRバス専用道の終点があった「城戸」を過ぎて、道はΩの字にぐるっと曲がりながら川と別れ、高度をどんどん上げていきます。杉林のなかの峠道を走り、さすがにこのあたりでは、それまでひっきりなしに続いていたバス停案内も、しばらくは途切れます。中ほどで曲がっているトンネルを抜けて、次は「天辻」。

 水がほとんどなく、小石の白さだけが目立つ川が見えます。もう最上流部なのでしょうね。ヘアピンカーブでさらに登り、車両同士のすれ違いができないような、狭いトンネルが長く長く、まっすぐに続く……。モグラになった気分でトンネルを抜けると、それで峠を越したようです。天辻は薄暗い林のなかのバス停。人家は見えませんが、見えないところに家は隠れてあるのでしょうか。

 道は一転して急な下り坂にかわり、ダム湖の周囲をめぐったあと、赤色のトラス橋を渡って、「阪本」。直角カーブの先にある狭いトンネルの入口で、対向車の出てくるのを待つ。御母衣ダムのほとりの道を思い出しました。道はしだいに「酷道」といってよい道になってきています。

 
 つり橋が見えました。

 
 「小代下」というバス停。ワンボックスカーの村営バスが橋のたもとに停まっていて、作業服姿のドライバーらしき人が手を振っています。このバスと接続しあっているのでしょうね。おばぁさんが1人降りていきました。

 真新しいトンネルポータルが正面に見えたものの、まだ完成していないらしく、バスは川沿いにへばりつくように続く狭いうねうね道へ。前から車がくるたび、交差できるところで辛抱強く待つ。狭いところで運悪くトラックと鉢合わせし、うねうねした崖沿いを50m以上バックして広いところまで戻るシーンもありました。バックアイはもちろんあるのですが、やっぱり手に汗にぎりますね。トンネルができたら、この光景もなくなるでしょう。

 川沿いの高い道から坂を下って、一段低いところに集まっている集落に入っていき、「大塔支所」。ここでもワンボックスカーの村営バスが待っていました。ここで五條バスセンターから乗ってきた年配の方々が何人か降りていきます。「おおきにおおきにおおきに、またたのんます、こらおおきにおおきに」と謝意を繰り返し、なかなか降りないオッサン。このオッサンも村営バスに乗り換えていきました。バス停前に、水車がくるくる回っているのが印象的でした。

 大塔支所から先へも道がある様子でしたが、バスは転回してまた高い道に戻り、橋を渡って新しい道を走ります。対岸からさきほどの集落を見渡しましたが、いやここはすごいところ。渓流に沿った狭い平地を生かすためか、斜面に沿って4階建てくらいになっている家。道に面した玄関が3階で、その下に2階、1階があるみたいな建築でしょう。そういう家が川向かいの狭いところに密集しています。ツイッターでフォロワーさんに教えていただくに、こういう建築は「吉野建て」というそうです。「間もなくバスは、五條市大塔町から、十津川村に入ります」という放送が入りました。

 
 「上野地」。ここで20分の開放休憩となります。

 
 ここは有名な日本最長の吊り橋のあるところでした。

 
 このような表示を見るだけで、回れ右したくなる方もおられるでしょう……!

 
 吊り橋は歩くたび相当に揺れて、酔うかと思ったほどです。踏み板はギシギシきしみ、ときどきミシッと沈む板もあったりと、かなり危なっかしいものでした。

 
 上野地の集落。高校生が何人か歩いています。はじめは地元の高校生かと思ったのですが、合宿かなにかで? 反対方向の五條バスセンターゆきに乗って旅している子たちでした。食糧が買える店を求めて村のなかをさがしていたようですが、唯一のなんでも屋が閉まっており、落胆している様子。五條ゆきの乗務員さんは「そこの家にタマネギが吊るしてあったから、頼んで貰ったらどうや?」などと笑いながら云っていましたが、例え貰えたとしても、ナマのタマネギだけ喰えるわけはないですな笑

 さて発車。この小休止がいい気分転換になりますね。

 上野地を出たあとも、道は広くなったり狭くなったり。とくにトンネルは狭く、しかも入口がどういうわけか大抵直角カーブの先にあり、このあたりのトンネルはみんな直角カーブの先にあるのではという気さえしました。そしてどれもすれ違い不能。カーブの陰で対向車の出てくるのをジッと待ちます。やがて矢のように飛び出してきた車は、みんなクラクションを鳴らしながら走り去って行き……。連続3台、おっとまた1台。これもクラクションを鳴らして行きました。

 「滝川口」という停留所で、ついに液晶運賃表のページ数が3ページ目に突入しました。その次は「風屋花園」という綺麗な名前のバス停。吉野川の山峡は、徐々に薄暗くなってきています。

 「湯の原」「十津川村役場」「十津川小原」。空の狭い山峡に闇がおとずれるのははやく、「今戸」というバス停のあたりでは、もうほとんど日没。どんなところを走っているのかよく分からなくなってきましたが、カーブが絶え間ないのだけは、車の揺れで分かります。真っ暗な山峡をくねくね走りながら、次から次へと聞いたことのない停留所名が告げられる。いったいどこを走っているのか、どこへ走っているのか、夢を見ているような陶酔におそわれます。

 しかしその陶酔から、一挙に現実的な光景に引き戻されたのが「込の上」というバス停。十津川高校入口と副称がついていて、なんと高校生が群をなして乗ってきました。これは予想外の展開。まさかこんな山のなかに高校があるとは……。「最悪や、」って男の子がつぶやいたのは、私の座っている最後尾が常日頃の定位置だったのかも知れません笑

 
 「十津川温泉」。ここでも10分間、最後の開放休憩となります。高校生らもバスを降りて休憩していました。通学のためのバス路線に途中休憩があるわけです。こんな光景は珍しい気がします。もう真っ暗な夜ですが、ここから終点・新宮駅まで、まだ2時間。大和八木からの運賃はすでに3400円。整理券番号は78番に達しています。

 ここは奈良交通の十津川営業所が併設されていましたが、運転士さんは交替することなく、そのまま乗り通し。ということは6時間30分の行程をオールワンマン・途中乗り継ぎナシということになります。これは大変でしょうね……。しかも高速バスと違って道中は停留所だらけ、道は狭い。乗っているほうも大変ですが、運転するほうはその何十倍も大変でしょう。

 「果無隧道口」。これは「はてなしずいどうぐち」と読ませます。おそろしげな名前ですが、実際の隧道は果てがないほど長くもありませんでした。真っ暗ではありますが、ぐるんぐるんとヘアピンを繰り返しているのは分かります。車内では男女の高校生が、あるいは寝たり、あるいは菓子を分けあったり。外は闇の山峡だが、車内はごくごく日常的な風景。次は「七色」。

 「間もなく、奈良県と和歌山県の県境でございます」との放送が入りました。ついに和歌山県。いやー……、長かった奈良県も終わり、ついにここまで来たかと感じましたが、しかし車内では高校生が細木某の口真似をして「地獄に落ちるわよ!」と繰り返しているという。ほんと、日本一長いこの路線は、日常だけを細長く連ねてのばしたみたいな、純天然のローカルバスといえます。

 「三里橋」。ここではじめて高校生が何人か降りていきました。ということは、和歌山県から奈良県の高校に通っているということになりますね。「ばいばーい」「おやすみー」「よい三連休をー」「男前になれよー」「イケメンになれよー」そんな声が車内に響きます。運賃表は4ページ目に突入しました。

 「祓所団地前」。すごい名前ですが、まさかお祓いを専門職とする人の住む団地でもないでしょう。次は「本宮大社前」。世界遺産の熊野本宮大社ですが、真っ暗な駐車場をぐるっと回るだけで、夜に訪れただけの感想としては、淋しい観光地のように思えてしまいました。昼間にくれば、まったく印象はちがうのでしょう。けれど、神々がおわすという熊野本宮は、ほんとうならば、深閑とした淋しいところでなければならないでしょう。

 熊野本宮の次が「湯の峰温泉」。バス停ひとつ分なので近そうに思えましたが、道幅の狭く明かりもなく心細い山道を曲がり曲がって、やっと到着。旅館の灯りが別天地のように思えます。開けた窓から硫黄のにおいが吹き込みました。乗降ともになし。続いて「川湯温泉」。たしかに旅館が立ち並んでいる反対側に、川のおもてが白く流れているのが見えます。「かめや前」「ふじや前」と、たぶん旅館の名前らしいバス停が続きました。

 「本宮小学校前」というバス停で、ついに整理券番号は100番を突破しました。100番ですよ100番。整理券番号というものに100番という3桁の大台が存在するなんて、思いもしませんでした。「大津荷」と書いて「おおつか」と読ませるバス停で、高校生はみんないなくなりました。ここから十津川村まで通うのは大変でしょうね。

 道も広くなり、快適なドライブが続いて「志古」というバス停。液晶運賃表の右画面に出る画像によると、瀞峡という景勝地の最寄りらしいが、どんなところを走っているのやら、とこやみの国なり。しかし決してつまらなくはありません。車内が無人になったためもあり、夢うつつの、夜の空を飛んでいるような乗り心地。自分がどこへ向かっているのかも分からないような……。

 次は「新宮高校前」。ついに新宮の名前が出てきました。沿道に◆型の熊野交通のバス停がいくつか見えましたが、それらの名称は放送されず、飛ばしていきます。新宮という地名が見えて、最後の最後でようやく、[特急]らしくなってきました。

 新宮の街に入ると、もうたいへんな大都会へ来たように感じます。街灯に灯りがともり、お店の看板がひかる。ローソンもすき屋もある。車がたくさん走っている!

 そしていよいよお別れのとき――。

 
 終点・新宮駅に着きました。大和八木から6時間30分。大和八木駅からの運賃は5250円。

 
 整理券番号は109番。

 最後に、乗務員さんから「完全乗車証明書」をいただきました。A4大のパウチしたもので、こんなものまで用意されているとは、さすがに日本最長のバス路線ですね。

 
 日本最長バス路線の旅はここまで!


MORI SAKETEN.com SINCE 2003

もりさけてんTOP > バスTOP > 遊覧TOP > 当ページ





inserted by FC2 system