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午前0時の北鉄バス

 平成15年(2003年)12月1日〜平成21年(2009年)5月30日にかけて、金沢地区の北陸鉄道グループバスで「深夜バス」が盛んに運行されていた時期がありました。現在もこれに準ずるような便は一部路線で運行されていますが、当時のそれは、いまとは比較にならないような規模といえ、金沢市内の主要路線のほとんどに23時、24時台の最終バスが行き渡っていました。

最終修正:令和6年4月2日 (21)


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 ● 深夜バス開始の背景

 深夜バスが開始された平成15年(2003年)頃は、乗合バスの規制緩和が行われて間もなく、新興の事業者が乗合事業への新規参入を模索していた時期でした。また、飲酒運転による死亡事故が社会的な問題となり、危険運転致死傷罪が成立するなど罰則規定強化の動きが始まりつつある時期でもありました。

 このような時代背景のなか、平成15年(2003年)頃から新興事業者が深夜の酔客を取り込むべく、乗合ジャンボタクシーの運行を開始しました。

 皮切りとなったのは森本の新興タクシー会社だったケイ・エス交通(株)(のちにバス事業にも参入しケイ・エス(株)と改称)で、遅くとも平成15年(2003年)5月8日までに「ナイトシャトル」と銘打って片町〜森本駅前間で参入しています。

 運行ダイヤは22:00〜1:30まで30分間隔、運賃は600円とし、乗車場所は片町(ラブロ片町前)と森本駅前(北鉄バス停前のアローヒルズ駐車場)のみだったものの、下車は経路上のいずれの場所でも自由とし、片町〜武蔵〜彦三〜山の上〜森本駅前という経路で運行されました。

 
 ▲ケイ・エスが運行していたナイトシャトルの車両

 続いて、当時松任に本社を置いていた石川中央交通(株)も同様の深夜乗合タクシーに参入し、平成15年(2003年)11月27日から片町〜広小路〜工大前〜野々市〜松任という区間を木・金・土の23:55〜2:30まで30分間隔、運賃800円で運行を開始しました。

 とくにケイ・エス交通(株)の「ナイトシャトル」は平日は毎日運行と規模も大きく、ラブロ片町前にはポールも常設されたため認知度も高まり、金沢市北部の柳橋を本拠地としていた ほくてつバス(株)としては看過できないものがあったのではないかと思われます。

 金沢市北部方面へは、従来から月〜金に香林坊23:18発の[87]柳橋ゆきが運行されており、平成15年(2003年)4月27日改正でこれが片町23:17始発に変更されていたところでしたが、同年7月7日にはこの便を森本駅前経由で今町まで延伸。片町→森本駅前の運行に対抗する形になりました。

 ● 平成15年(2003年)12月1日、深夜バススタート

 このほくてつバス(株)による今町ゆき深夜便に手応えを得たためか、あるいは今後の新規参入への抑止力とするためか、平成15年(2003年)12月1日より北陸鉄道グループバスでは全社的に月〜金の終バス時刻大幅繰り下げが行われ、本格的な「深夜バススタート」となりました。始発が24時台という、これまでの北鉄バスでは考えられなかった時間帯の運行となる便も多く、新たな時代の幕開けを感じさせるものがありました。

 スタート当初の深夜バス各便と運行時刻は以下の通りです。全便、月〜金のみの運行。主要停留所の時刻のみを記載しますが、各停留所に停車していました。


 ・ [18]花里線

片町   24:02発
香林坊  24:05
広坂   24:07
猿丸神社前24:11
赤坂   24:14
花里住宅 24:16
永安町  24:22
東部車庫 24:33着

 花里経由東部車庫方面へは、元々香林坊を23時台に出る深夜便といってよい便が運行されていましたが、さらに大幅に終バスを繰り下げ、片町(ラブロ前)を始発とする深夜バスが設定されました。片町始発ながら、香林坊では当時の花里線は仙石通り沿いの派出所前のりば(現在のふらっとバス材木ルートのりば)の1ヶ所のみの停車となっていたため、この便も片町発車後、わざわざ香林坊交差点を直進し、尾山交差点を右折、仙石通りへと向かっていた模様です。

 ただし片町始発は最初の1年だけで終わり、翌年からは香林坊始発に、のちには金沢駅23:48始発に変更されています。


 ・ [20]平和町線

香林坊  23:58発
片町   24:00
広小路  24:03
寺町三丁目24:05
寺町二丁目24:06
寺町一丁目24:07
十一屋  24:08
平和町  24:18着

 平和町ゆきは香林坊アトリオ前を始発とし、片町を24:00ちょうど発となる時刻設定とされていました。しかし香林坊始発の時代は長く続かず、数年して金沢駅23:48発に変更されています。さらに平成19年(2007年)4月改正までには金沢駅23:33発に繰り上げられており、元々の終バスが金沢駅23:28発でしたから、いつの間にか深夜バススタート前とほぼ同じ時刻が終バスになってしまったことになります。


 ・ [30]額住宅線

金沢駅前  24:10発
香林坊   24:17
片町    24:19
広小路   24:21
泉が丘   24:26
円光寺   24:29
大額二丁目 24:37
南部車庫  24:55着
 一連の深夜バスで最も遅い時刻を始発としており、終点到着はほぼ午前1時という、キングオブ・深夜バスといえる便でした。終着が南部車庫であり、そのまま入庫できることからこのような時刻設定が可能だったのでしょう。


 ・ [33]四十万線

金沢駅前  24:00発
香林坊   24:07
片町    24:09
広小路   24:10
有松    24:16
大額二丁目 24:29
南部車庫  24:46着

 円光寺経由の[30]番とともに、寺地経由の[33]番にもまた深夜便が運行されていました。光が丘口〜南部車庫間の利用客にとっては、10分刻みで2便が運行されていたことになります。


 ・ [41]千代野線

金沢駅前  23:50発
香林坊   23:57
片町    23:59
広小路   24:01
有松    24:05
松任    24:22
千代野NT 24:41着

 松任方面へは従来から県庁前22:50発→金沢駅23:10の千代野ニュータウンゆきが運行されており、準深夜便といえる存在となっていましたが、深夜バス開始とともに、これよりさらに遅い便が金沢駅始発で増便されました。石川中央交通(株)への対抗策と見られ、まもなく同社のジャンボタクシーは姿を消しています。

 なお、平成19年(2007年)4月27日改正より県庁前22:50発の便は金沢駅23:10始発に変更されています。


 ・ [50]上荒屋線

兼六園下  23:30発
香林坊   23:33
片町    23:36
白菊町   23:38
新神田   23:43
保古町   23:45
西金三丁目 23:48
上荒屋西  24:00着

 上荒屋線は通常便と同じく兼六園下を始発とし、兼六園下から香林坊、片町方面への終バスも兼ねていたようです。


 ・ [96]西金沢線

片町    23:30 24:04
香林坊   23:31 24:05
兼六園下  23:34 24:08
横山町   23:36 24:10
桜町    23:38 24:12
旭町    23:41 24:15
若松    23:45 24:19

 学生街・旭町、若松への深夜バスは、一挙に2便が新設されていました。当時の学生の飲み会帰り、あるいはアルバイト帰りなどに愛用されていたことでしょう。2本とも若松どまりながら、ほくてつバス(株)担当のためもあり、西金沢線の派生系統となっていました。


 ・ [53]西金沢線

金沢大学前 22:30発
若松    22:34
旭町    22:37
桜町    22:40
兼六園下  22:44
香林坊   22:46
片町    22:47
西金沢   23:10着

 西金沢線では西金沢方向の増便も行われ、これが金沢大学からの終バスともなりました。


 ・ [63]三馬大野線

片町    24:06発
香林坊   24:07
南町    24:08
武蔵ヶ辻  24:09
北町    24:17
畝田    24:22
金石    24:28
大野港   24:37着

 金石方面への深夜バスは大野港ゆきで運行されていました。所属は北陸鉄道(株)西部営業所ですが、北鉄金沢中央バス(株)への管理委託便となっていました。


 ・ [70]錦町粟崎線

片町    22:50発
香林坊   22:52
武蔵ヶ辻  22:55
金沢駅西口 23:02
上諸江   23:06
西割出   23:10
粟崎南口  23:16
粟崎三丁目 23:30着

 北陸鉄道(株)西部営業所が担当し、小松空港線の特急バス車両で運行されていました。片町を22時台の発車でもあり、どちらかといえば準深夜バスといえるものですが、上諸江、粟崎方面へはこの便とは別に[71]内灘駅ゆきの深夜バスが23時台に運行されていました。このためもあってか、残念ながら利用客が多くなかったようで、この粟崎ゆきは数年で廃止となり、以降は内灘駅ゆきのみが上諸江、粟崎方面への深夜バスとして運行を続けました。


 ・ [71]内灘線

片町    23:25発
香林坊   23:26
武蔵ヶ辻  23:28
金沢駅西口 23:35
上諸江   23:39
西割出   23:43
粟崎一丁目 23:50
内灘駅   24:00着

 こちらは北鉄金沢中央バス(株)が担当していたため、[71]番として運行されていました。シティライナーの後運用となっていたらしく、車両はシティライナー専用のHRが使われていました。当時はシティライナー専用車がその他の路線に入る光景は非常に珍しく、注目すべき便といえました。


 ・ [87]野町・鳴和線

片町    24:00発
香林坊   24:01
武蔵ヶ辻  24:03
彦三    24:05
山の上   24:09
鳴和    24:11
柳橋    24:15
今町    24:28着

 [87]番については、ケイ・エス交通(株)に対抗して開始されていた片町23:17発今町ゆきがすでに運行されていましたが、これに加えて片町24:00発も追加増便されたわけで、森本・今町方面へは深夜バスが30分おきに2便という充実ぶりとなりました。

 ほどなくして、平成17年(2005年)3月31日を最後にケイ・エス交通(株)のジャンボタクシーは廃止されています。ジャンボタクシーが600円で運行していた区間が360円で済むのですから、増発時点で勝敗は明らかであったといえるでしょう。

 ケイ・エス交通(株)が撤退した後、この今町ゆき深夜バスは用済みとばかりに2本とも廃止され、かわって片町23:25始発の本津幡駅ゆきが森本・今町方面への深夜バスとして運行されていました。

 ● 深夜バスの終焉

 平成21年(2009年)5月31日に行われたダイヤ改正で、深夜バスの多くは減便、または最終時刻の繰り上げが行われました。金曜日のみならず利用客の非常に多い便もあり、惜しむ声も多かった深夜バスの終焉ですが、乗務員の拘束時間も長くなり、深夜帯ゆえに手当ても必要とあって、利用は多くとも採算性は高くないという状況であったとも伝え聞きます。

 その上、この前年の平成20年(2008年)4月から市などが出資する第3セクター(株)金沢商業活性化センターが運営し、西日本ジェイアールバス(株)が受託運行する「まちバス」が金沢駅〜香林坊で100円運行を始めたことによる巨額の減収が生じており、これが決定打となってしまったようです。

 深夜バス維持にあたっては割増運賃の適用なども検討されたようですが、結局多くの便は廃止、あるいは時刻の繰り上げが行われ、午前0時の片町をゆく北鉄バスの姿はなくなりました。

 終バスが大幅に繰り上げられた地域の居住者のなかには、終バスが早いがために、飲み会は一次会までで我慢するという人や、あるいはどうせ代行を頼むことになるならと県庁エリアや8号線沿いなど郊外の居酒屋を利用する例も多くなっているように感じます。

 まちなかに賑わいを創出すべく金沢商業活性化センターが企画した「まちバス」が、逆に夜のまちなかから賑わいを奪う遠因になってしまったというしかありません。

 しかし、いまとなっては働き方改革や勤務インターバルなど、乗務員さんの健康的な生活が第一に捉えられる時代になりました。遅かれ早かれ、夜遅くまで馬車馬のように働く必要のある深夜バスの運行は、いずれかの時代に終了することになっていたでしょう。もう午前0時に北鉄バスが走り回ることは2度とないのかも知れません。


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