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花の少女ガール綾
第1話 「はじめたい 花の少女ガール綾」
花の少女ガール綾のことを書きます。
綾の活躍が知られるようになった最初は、まだ現在のように市として合併する前の八塚町時代の広報誌「広報はちつか」平成15年(2003年)2月号で紹介されたことになるのではないでしょうか。
同誌の「今月のホットフォト」という連載コーナーに「花の少女ガール綾、お手柄」との見出しがあり、その横顔が紹介されています。
「お手柄」とはつまり、ブレーキの故障した幼稚園バスを事故から守ったというものでした。
この事案は前年の12月16日に発生。翌日付けの百萬石新聞朝刊によれば、謎の犯罪集団によるしわざで、事故にならずに停車させることができたが、犯人の行方は分かっていないとありました。
気になるのは、「複数の園児が少女が走行中の幼稚園バスに飛び付き、バスを救ってくれたと証言しているが、事実関係は分からず、園長の小田波さんも首をかしげる」と書かれていることです。
少なくとも、この朝刊の時点では花の少女ガール綾が幼稚園バスを救ったという事実には半信半疑といった書き方がなされていると見受けられます。
しかし、その後さらなる綾の活躍が続いたことから、園児のいう謎の「少女」がやはり実在するのではないかと思われるようになったのでしょう。
後年の報告書には、このときバスに乗り合わせていた担任(当時)の保育士Lさんが、園児の言っている通りであると証言したとありますから、そのことも大きかったのではないでしょうか。
こうして、約2ヶ月が経過した2月には町の広報誌に取り上げられるようにもなったのでしょう。
掲載されているスナップでの綾は、眼のまわりを覆う赤色の仮面のために素顔が明らかではありませんが、口もとは可憐さを残し、その唇はみずみずしく潤んでいました。肩のあたりまで伸びた緑の黒髪や丸みを帯びた頬が、少女であることを示していました。
このときの記事ではそのスナップとほんの一文のみの紹介でしたが、翌月の同誌3月号ではさっそく大きく特集が組まれ、当時の山口町長と固く握手を交わす彼女の写真が表紙を飾るほどでした。
花の少女ガール綾。その名は、凛々しい仮面と、わずかにのぞく優しげな目もと、赤、紫、黄と色とりどりの衣装とともに、町民の誰しもが知ることとなりました。
綾はこの砂丘の町に投げ込まれた花束といえたでしょう。
3月号の特集記事によれば、綾は平成15年(2003年)2月20日にも手柄をあげたばかりとありました。
スーパーマーケット「ピーマン」を守った一件でした。
いつの頃からか、悪党の一団が町内のスーパーマーケット「ピーマン」の店員らに成りすまし、勝手に半額引きシールを貼り付けるなど不正を繰り返して店に損害を与え、町を経済の面から破壊していくという犯罪行為が秘密裏に行われていたそうですが、それを救ったのが綾で、彼女の機転により店員の正体が割りだされ、町民の台所といえる「ピーマン」の破綻を未然に防いだと記されています。
町民のコメントとしては、
「なんでもかんでも、グロッサリーでさえも半額になっているのでおかしいとは思っていた」
「半額引きは助かっていたが、かといってピーマンに潰れてもらっては困る」
といったコメントが寄せられていました。
有識者のコメントとして、国際浜北大学の表教授の談話が掲載されており、教授は、
「花の少女ガール綾は絶対に負けない。異星人にだけ効果のある魔法を使うからだ。それは現代の科学の粋を集めても再現はとうてい不可能だろう」
とコメントしていました。
少なくともこの時点までには、花の少女ガール綾は表教授と接触していたことになりますね。
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